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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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過去を連れてくる男(2)

先週も急にお休みしまして、またまたすいません!
年賀状に追われてしまいドタキャンです。
selfish の計画性のなさは今に始まったことではないんですけど、ほんと申し訳ないです…

さてさて、当方でも雪が降り始めまして「明日の朝は早起きして出勤しなきゃ!」と思いつつ、「なるようになるかぁ」と思っているわたくしめです。
いやあ、お気楽な性格がここでも出てきておりますが、そんな中で綴りました妄想を少しでも楽しんでいただければ幸いです!


拍手[2回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

鋼牙はカオルの部屋の前で足を止めた。
少しだけ躊躇したが、やがて遠慮がちにノックをする。

「カオル…」

名前を呼びかけながらしばらく待つが応答はなかった。

「入るぞ」

そう言うとドアノブをゆっくりと回して部屋の中へと入った。
部屋は明かりが落とされていて、とても静かだ。
鋼牙はゆっくりとベッドに近づき、カオルの様子を伺った。
カオルは深く布団をかぶり、向こう側を向いている。

「…」

わずかに見えるのは左側の目元あたりだけ。
音のない部屋で、布団のふくらみが彼女の呼吸に合わせてゆっくりと上下するだけだった。
鋼牙は、わずかに悲し気に目を曇らせたが、

「…おやすみ」

とつぶやくように言って、踵(きびす)を返した。

  パタン

静かにドアが閉められて、室内にはカオル以外の気配は消えた。
しばらく待って、カオルは目をぱちりと開けて、大きく息を吐きだした。
いつの間にか力が入っていたのだろう、強張っていた身体から力が抜けた。

ごそごそと寝返りを打ち、鋼牙の消えていったドアをチラリと見やってから仰向けになり、またひとつ息を吐いた。

天井の一点を見つめたまま、

(ごめんね)

と寝たふりをしてやり過ごしたことを心の中で鋼牙に謝った。

だが、すぐにカオルの心に影を落としたのは昼間会った男のことだった。

(忍田(しのだ)さん…)

最後に彼に会った頃よりずいぶん痩せてしまっていた。
優し気ににこにこ笑っていたが、何かを諦めざるを得なかった者の持つもの悲しさと、それでも前を向こうとする力強さが共存したような笑顔に、カオルは胸が痛くなった。

彼があんな身体になってしまった責任の一端は間違いなく自分にあると思う。
それを思うと息が詰まる様な気持ちになる。
押しつぶされそうな罪悪感に抗うように、手の甲を額につけて目をぎゅっとつぶる。
ざわざわと落ち着かない気持ちを持て余しながら、カオルは浅い眠りにつくしかなかった。




翌朝。

「おはよう」

というカオルは、一見いつもと変わりないように見えた。
だが、彼女と長い付き合いの鋼牙とゴンザの目は胡麻化されない。
ふたりはそっと視線を合わせ、ゴンザは気づかわしそうに眉を落として見せた。
けれども、カオルが何事もなかったふうを装っている気持ちを尊重して、ふたりは何も言わずにいつもどおりに接した。



昼食時。
ぼんやりとして食がちっとも進まないカオルに、鋼牙は密かに溜息をつき、ゴンザは泣きそうな表情になった。



ティータイム。
そろそろお茶にいたしましょうと声を掛けたゴンザに、カオルは

「今いいアイデアが浮かびそうなの。
 すぐに形にしないと忘れちゃうから、今日のお茶は遠慮しとくね」

と言って笑った。
真っ白なキャンバスと、開かれてもいないスケッチブック。
それを見たゴンザは、

「では、もしも一服したくなったら、いつなりと言ってくださいませ」

と弱々しく微笑むしかなかった。



夕食後。
少しは食べられるようになったみたいだが、ふたりに心配をかけさせないために頑張って口に運んでいるような様子のカオル。
鋼牙は何か言いたくなるのをぐっと堪(こら)えていたが、食後のコーヒーを一口飲んだところでとうとうカオルに声を掛けた。

「カオル」

お砂糖を入れてすっかり溶け切っているにちがいないのに、いつまでもグルグルとスプーンでカップの中をかき混ぜていたカオルが、ハッとして顔をあげた。

「なあに?」

けれども鋼牙と目が合うと、すぐに手元に視線を落とし、再びコーヒーをかき混ぜだす。

「何かあったのか?」

「えっ? 何かって?」

とぼけるカオルに鋼牙はストレートに尋ねた。

「昨日から、おまえの態度がおかしい。
 何か気にかかることでもあるのか?」

けれどもやっぱりカオルはとぼける。

「ええ? そ~お~?
 別に何もないけどな…」

これには大袈裟に鋼牙は溜息をついた。
そして、

「言えないことなのか?
 昨日、おまえがイベントで会った男が何か関係しているのだろう?」

と遠慮なく切り込んだ。

別に、鋼牙はカオルの不貞を疑っているわけではない。
その男とカオルは過去に何らかの因縁があったのかもしれないが、今現在は何も関係がないはずだ。
ただ、カオルがその男のことで思い悩むことが、なんだかちょっと面白くない。
いや、いや、いや、過去の因縁だって、ほんとはあってほしくない。うん、いや、きっと「ない」… はずだ。
「ない」といいんだが、カオルがこれだけふさいでいるということは… やっぱり何かあったのか?

鋼牙の頭の中は忙しいほどに思考を繰り返すが、そこはなんとかポーカーフェイスを貫いて、表面上はしれっとカオルを追及する。

「男って… イベントにはたくさんの人が来ていたよ。
 鋼牙はどの人のことを言っているの?」

カオルはわけがわからないと笑いながら言う。
それを聞いて鋼牙の眉間に深い皺が刻まれる。

「杖をついた男だ。
 そいつと何か話をしていただろう?」

ぎくっとカオルは肩を跳ね上げた。

(ああ、ゴンザさんから何か聞いてるんだよね…)

ここまで言われればもう誤魔化しようはないだろう。

「…うん、会ったよ」

観念したとばかりに肩を落としたカオルがぼそりと言う。

「そいつがどうかしたのか?」



to be continued
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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