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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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この気持ち(4)

みなさまのお住まいのところでは桜はもう散ったのでしょうか?
selfish の住むところは今がちょうど満開。
今日は風が強かったので、桜並木は花びらがはらはらと舞い落ちていて、それはそれは美しかったです。

えっ、妄想ですか?
なかなか進展しておりませんが、それはオチを探してい… あ、いえいえこちらの話です。
今宵もわずかですが、少しでもお楽しみいただければと思います。

拍手[2回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

働かせてほしい、そう言うマユリを女性はわずかに目を見開いた後、じっと見つめた。
そして、にっこりと笑ってくれたので、マユリは思わず希望が持てるかもしれないと期待したのだった。
ところが、彼女の口から出たのは、

「それはもう少し考えてからでもいいんじゃないかしら?」

という言葉だった。

「えっ?」

てっきり色よい返事がもらえるものと思っていたマユリは驚きの表情のまま固まってしまった。

「もちろん、あなたがここで本当に頑張って働きたいというのなら断ったりしないわ。
 でもね…」

女性は、ゆっくりと店内を愛おしそうなまなざしで見渡してから

「私もこのお店がとっても大事なのよ。命の次… ううん、命と同じくらいに大事だわ」

と言った。

「だからね、なんとなくなりゆきで、とか、とりあえずお金さえ稼げれば、みたいなつもりで働いてほしくないのよ。
 悪いわね…」

女性は少し申し訳なさそうに眉尻を下げている。
それを聞いて、マユリは心臓を鷲掴みされたような気分になった。
女性が言ったことは、まさにマユリの頭に浮かんだことだったのだから。
冴島家に厄介にならずにすむには、とりあえずどこかで働かないと、とずって思っていたのだが、それがここだったら助かるなという打算があったのは確かなのだ。

マユリは

「…ごめんなさい」

と素直に謝った。
自分の都合ばかりを考えて、この女性にとって大切な仕事の場所に軽い気持ちで入り込もうとするなんて、

(なんて図々しいことを…)

マユリは、浅はかな自分にのことがただただ恥ずかしくて、羞恥に顔を赤く染めて俯いた。
そんなマユリに女性は言う。

「あっ、いいのよ、謝らなくても。
 私の方が強引にあなたをここまで連れてきて、無理やり手伝わしてしまったようなものですもの」

女性は少し慌てて下から覗き込むようにしながら言ったので、マユリはおずおずと顔を上げた。

「あなたに手伝ってもらったのはね、ちょっとした気晴らし、みたいなそんな感じなのよ…
 だって、あなた、ひどい顔してベンチに座ってたんですもの。

 それに、なんていうのかな…
 今まであなたがしたことないようなことをちょっとやってみるのもいいのかな、って」

女性はマユリを見ながら

「私みたいな料理をお客さんに提供するような仕事ってしたことある?」

と尋ね、首を横に振るマユリを見て、

「うん、ないでしょ?
 だから、そういうお仕事をちょっとだけ体験してみてもいいんじゃないかって思ったのよ」

と言った。

「だって、あなた… えっと、間違ってたらごめんなさい。
 あなた、行く場所がないんじゃないの?」

遠慮がちに探る様な視線。
マユリは動揺して視線を揺らしていたが、やがて気持ちを決めて視線を女性に向けた。

「あの、ちょっとだけ私の話を聞いてもらえますか?」

そうして、マユリは、詳しくは話せないけどを前置きしてから、自分にはある能力があって、それを使ってこれまで仕事をしてきたこと、けれども、その能力が今は消えてしまって仕事ができなくなってしまったことを話した。

「その仕事をするうえでパートナーになった人がいて、その人が、私の力がなくなってもここにいていいって言ってくれてるんです。
 だから、帰る場所はあるんです。
 でも…
 何もできない自分が近くにいたら、絶対に迷惑になるっとこともわかっていて…
 どうしたらいいのかわからないんです」

マユリは泣きそうな気分で深い溜息をついた。

「…ごめんなさい。
 こんなこと言われても困るだけですよね?」

女性は首をゆっくり横に振り、大丈夫だというようにマユリの手に自分の手を重ね合わせてきゅっと握ってくれた。
そして、やおら口を開く。

「あなたみたいなこと、きっと誰にでもあるものだと思うわ。程度の大小の違いはあれどね…

 私もね、幼い頃は、大人になったら、親のしていた仕事を自分もするもんだ、ってずっとそう思ってたわ。
 私の周りにいる子たちもみんなそうだったから、周りに負けないように負けないようにって必死にがんばったわ。
 でもね、あることがきっかけで、その仕事にちょっと疑問を持っちゃって…

 今はね、こうして、お客さんのために料理を作ることが天職だって思えるくらいなんだけどね。
 当時はすごく悩んだし、苦しかったし、結構ボロボロになったわ」

そう言って遠い目をしていた女性は、ふふふ、と笑った。

「偉そうなことは言えないけど、この年になると思うのよね。
 あなたみたいな若い人たちは、挫折を味わってもそこで終わりじゃないのよ。
 道は目の前にあるひとつじゃなくって、右にも左にもあるはずだわ」

そう言ったかと思うと、

「そして、どの道を選んでも、これが正解かなんてわからないのよ。
 だから悩ましいんだけどね?」

とウインクしつつ実にキュートな笑顔を見せる。

「でも、これだけは、間違えてほしくないな。
 どの道を行くにしろ決めるのは自分だってことを…

 人に決めてもらったりしちゃだめよ。
 あと、状況が許さないからこの道しかなかったんだ、とかもナシよ?
 そうやって決めた道は、大して先に進めやしないもの」

「自分で決める、ですか…
 それがなかなか難しくて…」

「そうよね、難しいよね。でも、よく考えてみてね。

 そして、もしその進みたい方向が ’ここで働く’ ということだったら、いつでもウェルカムだからね!」

あはは、と笑いながらさらっと女性は言った。
そして、

「でも、よかったわ。
 住むところもないのかと心配したけど、その ’パートナー’ だっけ? その人はいてくれていいって言ってくれてるんでしょ?」

「はい。でも、いつまでもずるずるとは… 迷惑をかけたくはないから」

「その人は嘘をつくような人?」

「いいえ!
 嘘なんて絶対つかない人です」

「なら、頼ってもいいんじゃない?」

「そう… でしょうか?」

女性はそれ以上何も言わずニコニコ微笑んでいるだけだったが、あっという顔をすると時計を確認して

「いけない、そろそろ店を開ける準備をしないと!」

と急にあわただしく動き出した。

「あ、あの、私…」

「ああ! どうする?
 もうちょっと私の仕事、見て行ってくれても構わないよ?」

女性にそう言われたマユリは

「じゃ、じゃあ、もう少しだけいさせてください」

と答えた。
だが、その時にはもう女性は準備に追われていて、手に持った包丁をひょいっとあげるだけで作業に没頭していた。



to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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